【肝心屋#04】「孤独のグルメ」より「コタツの寄せ鍋」|老後に向けて本当に大事なものとは

社会・人間関係

正月に実家へ帰り、年老いた父と二人で囲んだこたつの寄せ鍋。

「孤独のグルメ」もいいけど、年老いた父から聞いた一言が心に残る。

老後に向けて本当に大事なものとは。

肝心屋は、酒を飲みながら人生の「肝心」をつまむ店。
家族、仕事、人間関係、老後のことを、
クスッとした笑いを込めて語る短編会話シリーズです。

ここは「肝心屋」。
暖簾をくぐると浩一、智やん、ケイタの三人が楽し気に酒を酌み交わしている。

智やんが浩一に言う。

「なあ、メガネ変えたか?」

「ん? そうか?」

「なんか俳優の松重豊みたいになってきたな」

「『孤独のグルメ』に出てる人だろ?」とケイタ。

「言われてみれば、ちょっと似てるかもな」

ケイタが続ける。

「孤独のグルメといえばさ、大晦日にスペシャルやってたじゃん。

あれ、なんとなく一日中見ちゃってさ。

派手なことは起きないけど、あの淡々とした平和さがいいんだよな」

浩一が笑いながら答える。

「確かにな。

でも俺はさ、孤独のグルメより、正月に親父とこたつで食べた寄せ鍋の方が好きだな」

「ん? どういうこと?」と智やん。

浩一は少し間を置いて話し出す。

「正月に久しぶりに実家に帰ったんだよ。

去年、お袋が病気で亡くなってさ……今は親父ひとり暮らしなんだ」

「近くに親戚はいるんだろ?」とケイタ。

「ああ、兄夫婦が近所にいるから様子は見てくれてる。

でもさ、やっぱり家にいると話し相手がいなくて、特に食事のときが一番寂しいみたいなんだよ」

智やんが言う。

「そういえば、親父さんも前に入院してなかったか?」

「そうなんだよ。親父の方は何度も大病しててさ、親父が先だろうって、みんな思ってたんだけどな。

まさかお袋を見送る側になるとは……人生、ほんと分からないよ」

しばらく沈黙が流れる。

浩一は続けた。

「それでさ、正月に帰った時に久しぶりに俺が料理作ったんだよ。

単身赴任長かったから、簡単な男の手料理くらいはできるんだ」

「何作ったんだ?」と智やん。

「寄せ鍋。

親父に何食べたいか聞いたら、鍋がいいって言ってさ。

ひとりじゃ鍋なんてなかなかやらないだろ。

だから、昔みたいにコタツに入って、二人で食べたんだ」

浩一は少し照れたように笑う。

「そしたら親父さ、すごく嬉しそうでな。

『正月にこんないいことがあるとは思わなかった』って」

「いい話じゃん」と智やんがうなずく。

「コタツで食べる鍋って、家族団らんの思い出と重なるんだろうな」

浩一はビールに口をつけてから、ゆっくりしゃべった。

「孤独のグルメも好きだけどさ、

一人で食べるどんなに豪華な料理よりも、

家族と一緒に食べる家の飯の方がずっと贅沢なんだなって思ったよ」

ケイタがつぶやいた。

「寒いね」と話しかければ
「寒いね」と答える人のいるあたたかさ ――「サラダ記念日」俵万智

智やんが苦笑いする。

「急にどうしたんだよ」

「知らないのか? 短歌だよ、短歌」

浩一が感心したように言う。

「いいな、それ。

何気ない会話の中に、人と人が通じ合ってる感じがしてさ」

「ケイタって、意外とロマンチックだな」と智やん。

「失礼だな。俺を何だと思ってんだ。文筆家だぞ」とケイタ。

「何気取ってんだ。ただのライターだろ」返す智やん。

「おい、人を百円ライターみたいに言うな」

三人が笑う。

浩一が話を戻す。

「年取って一番こたえるのって、

結局、一人で食べる飯なんじゃないかって思ったんだよ。

老後の資金も大事だけど、老後の人間関係も同じくらい大事だな」

智やんがうなずく。

「スティーブン・コヴィーの『七つの習慣』にさ、

“信頼残高”って言葉があるんだよ。

人との信頼関係を、貯金みたいに考えるやつ」

「金の残高ばっか気にして、

信頼残高を貯めてないと、あとで寂しい思いをするってわけか」

ケイタが笑いながら言う。

「俺はまさにそれ。
仕事ばかりで嫁さんとの会話なんてさっぱり。
かみさんからの信頼残高はいつもカツカツだよ」

「浩一を見倣って、まずは簡単な飯でも作ってみるかな」

「その気持ちだけで、奥さん喜ぶぞ」と浩一。

「俺も焼きそばくらいだけど、たまに作ると嫁さんはうれしそうだ」

ケイタががジョッキを持ち上げる。

「もし嫁さんに先立たれて一人になってもさ、

そのときは三人で集まって励まし合おうぜ」

「しょっちゅうは無理だぞ、金ないからな」と智やん。

「浩一、たまには奢れよ。退職金たんまり出るんだろ?」

「何言ってんだ。お前の方が稼いでるだろ」

「お前の方こそ、奢れよな」と浩一。

ケイタはまた呟いた。

「おごって」と話しかければ

「おごって」と答える人のいる世知辛さ ――ケイタ(自称・文筆家)

(俵万智さんファンの人、ごめんなさい)

~また、こんな夜の話を~

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