【肝心屋#01】バビル二世のポートフォリオ/三つのしもべに学ぶ仕事と人生の戦略

肝心屋(三人の本音劇)

~働き方に正解はない。けれど、状況に応じて違うカードを切れる人は強い~

会社員、士業、フリーランス。

どれが最強なのか――そんな答えのない問いを、居酒屋での他愛ない会話から考えてみた。

キーワードは「バビル二世」と「ポートフォリオ」。

三つのしもべを操る存在が示すのは、これからの働き方そのものかもしれない。

肝心屋は、酒を飲みながら人生の「肝心」をつまむ店。

家族、仕事、人間関係、老後のことを、
クスッとした笑いを込めて語る短編会話シリーズです。

ここは「肝心屋」。
暖簾をくぐると浩一、智やん、ケイタの三人が楽し気に酒を酌み交わしている。

どうやら高校時代の同級生らしい。年は五十台に見える。

「よう、浩一、最近調子はどうだ?」

「上司からも部下からも突き上げられて大変だよ。

 智やんこそ、どうなんだよ。事務所出て独立したんだろ?」

「まあまあだな。」

「フリーランスのケイタに憧れたけど、いい事ばかりじゃない。なっ、ケイタ」

「いいから早く飲もうぜ。とりあえず、生ビール三つ!」

ジョッキが運ばれ、軽く乾杯をする。

「ところでさ……お前ら、『バビル二世』って知ってるか?」浩一が聞く。

「ああ、もちろん知ってるよ。あの、三つのしもべを従えてるやつだろ?」

 子供のころ、テレビで見てたよ。智やんが答える。

「そうそう。その中でさ、一番強いのってどれだと思う?」

「やっぱり、ポセイドンじゃないか?」

「だよな。俺も最初はそう思ったよ。

だってロボットだぞ?

指先からミサイルが出て、肘を曲げたらロケットだ。

海の中なら自由に動けるし、防御力も最強だろ」

しばらくうなずき合っていた二人だったが、智やんが思い出したように言う。

「でもさ、ロプロスもいいよな。怪鳥ロプロス」

「ああ、口から衝撃波を出すやつな」

「ミサイルみたいな物理兵器じゃなくて、衝撃波って発想がすごいよな。あの時代で」

「しかも空を自由に飛べる。機動力は抜群だし、上空から攻撃できるってのはデカい。そう考えると、ロプロスが一番強い気もするな」

そこまで黙って聞いていたケイタが、口を挟んだ。

「いやいや、違うだろ。俺はロデムが一番強いと思うな」

「黒豹のやつか?」

「そう。あいつ小さいけど、自由に変身できるだろ。

どんな場所にも入り込めるし、情報収集に長けている。

攻撃力の弱い相手なら、アメーバみたいに包み込んで倒すこともできる。

いわば忍者だよ。

生物による人間の死亡率で、一番高いのはサメとかじゃなくて、蚊らしいからな。

ああいうのが一番強いんじゃないか?」

智やんが浩一に聞き返す。

「おい、浩一。で、結局オチは何なんだよ。どれが最強なんだ?」

浩一は少し間を置いてから、ゆっくりと言った。

「俺も最初は、ポセイドンが最強だと思ってた。

でもさ……どれが最強かは、置かれた状況で変わるんじゃないかって。

そうなると、三つのしもべを自由に操れるバビル二世本人が、一番強いんじゃないかって思ったんだよ」

「なんだそれ。ちゃぶ台返しだな」

「まあな。でもさ、

ひとつしか選べないって、思い込みや前提に

縛られる必要はないんじゃないかなって。」

「なんだよ、急に。そのココロは何だ?」

「実はこの前、ある本を読んでな。

そこに『イニシアチブ・ポートフォリオ』って考え方が書いてあったんだ」

「ポートフォリオ?」

「投資の世界でよく使われる言葉だな。

円グラフを思い浮かべてみろよ。

全部株とか、全部現金とかだと、状況次第で一気にやられるだろ?

だから、性質の違うものをバランスよく組み合わせる。

それがポートフォリオだ」

「なるほどな。」

「ここにある焼き鳥と冷ややっことサラダみたいなもんだろ。

栄養バランスいいぞ。」

「茶化すなよ、ケイタ」

「その本では、仕事も同じだって言ってる。

異質な仕事を組み合わせろ、ってな」

浩一は続ける。

「たとえば会社員。

安定してるし、防御力は高い。

稼げる会社なら攻撃力もある。

でも、基本は二本足歩行だ。

柔軟性や機動力は低くて、変化に弱い。

子供の教育にいいところで暮らしたくても、勤務地は会社次第だ。」

「まさにポセイドンだな」

「そう。で、ロプロスは例えるなら国家資格を持った士業だ。

税理士とか社会保険労務士とか。

全国どこでも働けて、機動力が高い。

なあ、智やん、お前のことだよ」

「ああ、しかし、同じ士業同士であれば、自分より能力があって、守備範囲が広い相手だと負けてしまうんだな。

自分より高く、早く飛べる相手にはロプロスも弱い。」

「確かにな」

「そしてロデムはフリーランスだな。

ウェブデザイナーとか。

スキルさえあれば、場所を選ばず働けるし、

需要に応じて戦い方も変えられる」

「需要に応じて戦い方を変えられるって言っ

たって、潮の流れを読み取る力と武器がない

とやってけないんだぜ」

ケイタが腕組みしながら答える。

「で、結局どうやってバビル二世は三つの

しもべを手に入れるんだよ」

「いきなりバビル二世じゃなくていいんだよ。

最初はただの高校生だったろ」

「またちゃぶ台返しだな」

「まあ、そう言うなよ。

同時に三つ三等分は難しいけど、時間軸で比

率を変えていくなら、できるんじゃないかと
思って」

浩一は開き直ったように笑った。

「山口周さんの『人生の経営戦略』って本を

読んでな。仕事のポートフォリオを考えるに

は、三つの視点が大事だって書いてあった」

「三つ?」

「リスクとリターン。

長期と短期。

そして、ライスワークとライフワークのバランスだ」

「ライスワークは生活のための仕事、ライフワークはやりがい重視、ってやつだな」

「そう。それって、人生のステージによって変わるんだよな。

三十代の子育て世代なら、まずは稼ぎが大事だ。

でも、子どもが独立したあとも、ずっと稼ぎ

と安定性重視の会社員のままでいいのかっ

て、ふと考えたんだ」

浩一は製造業に勤める会社員だった。

「バビル二世って、超高度文明を持つ宇宙人

が残した要塞で、超高性能コンピューターを

使って指揮を取ってるだろ?」

「ああ、そんな設定だったな」

「当時はSFだけどさ。今のAIって、もうそれ

に近いんじゃないかと思ってな。俺たちは、

バビル二世になる武器を、もう持ってるんじ

ゃないかって」

少し間が空く。

「そう言えば、バビル二世の主人公って浩一

って名前じゃなかったか。けど、ヒロインは

由美子ちゃんだから、お前の奥さんの名前と

は違うけどな」

ケイタが茶化しながら言う。

「言いたいことは分かった。でも、そんな簡
単じゃないだろ?」

「もちろん簡単じゃないさ。

でもさ、種をまかなきゃ、芽は出ないだろ」

浩一はビールに口を付けた後、続けた。

「俺、今は会社員だけど、定年後はフリーランスで働きたいと思ってる。だから少しずつ準備を始めてるんだ。最初は子猫みたいなロデムでもいい」

「時間はかかるけどな」

「だから今から種をまいて、

水をやって、育てていくんだよ。

長期と短期の視点さ」

智やんが笑って言った。

「なあ、さっき言ってた本、紹介しろよ。

俺も読んでみる」

「これだよ」

浩一はそう言って、スマホを見せた。

また、こんな夜の話を。

店主からひとこと
架空の物語のようですが、「学び直し」による新たな武器を身に着けようと実践中です。
私が描く人生後半の出口戦略はこちらです。

タイトルとURLをコピーしました