会社員、士業、フリーランス。
どれが最強なのか――そんな答えのない問いを、居酒屋での他愛ない会話から考えてみた。
キーワードは「バビル二世」と「ポートフォリオ」。
三つのしもべを操る存在が示すのは、これからの働き方そのものかもしれない。
三つのしもべは、それぞれ違う強さを持っている
ここは居酒屋「大将」。
五十代と思しき男が三人、楽しげに酒を酌み交わしている。どうやら高校時代の同級生らしい。名前は、浩一、智やん、ケイタだ。
「よう、浩一、最近調子はどうだ?」
「上司からも部下からも突き上げられて大変だよ。
智やんこそ、どうなんだよ。事務所出て独立したんだろ?」
「まあまあだな。」
「フリーランスのケイタに憧れたけど、いい事ばかりじゃない。なっ、ケイタ」
「いいから早く飲もうぜ。とりあえず、生ビール三つ!」
ジョッキが運ばれ、軽く乾杯をする。
「ところでさ……お前ら、『バビル二世』って知ってるか?」浩一が聞く。
「ああ、もちろん知ってるよ。あの、三つのしもべを従えてるやつだろ?」
子供のころ、テレビで見てたよ。智やんが答える。
「そうそう。その中でさ、一番強いのってどれだと思う?」
「やっぱり、ポセイドンじゃないか?」
「だよな。俺も最初はそう思ったよ。だってロボットだぞ? 指先からミサイルが出て、肘を曲げたらロケットだ。海の中なら自由に動けるし、防御力も最強だろ」
しばらくうなずき合っていた二人だったが、智やんが思い出したように言う。
「でもさ、ロプロスもいいよな。怪鳥ロプロス」
「ああ、口から衝撃波を出すやつな」
「ミサイルみたいな物理兵器じゃなくて、衝撃波って発想がすごいよな。あの時代で」
「しかも空を自由に飛べる。機動力は抜群だし、上空から攻撃できるってのはデカい。そう考えると、ロプロスが一番強い気もするな」
そこまで黙って聞いていたケイタが、口を挟んだ。
「いやいや、違うだろ。俺はロデムが一番強いと思うな」
「黒豹のやつか?」
「そう。あいつ小さいけど、自由に変身できるだろ。どんな場所にも入り込めるし、情報収集に長けている。攻撃力の弱い相手なら、アメーバみたいに包み込んで倒すこともできる。いわば忍者だよ。生物による人間の死亡率で、一番高いのはサメとかじゃなくて、蚊らしいからな。ああいうのが一番強いんじゃないか?」
智やんが浩一に聞き返す。
「おい、浩一。で、結局オチは何なんだよ。どれが最強なんだ?」
浩一は少し間を置いてから、ゆっくりと言った。
バビル二世=ポートフォリオという考え方
「俺も最初は、ポセイドンが最強だと思ってた。でもさ……どれが最強かは、置かれた状況で変わるんじゃないかって。そうなると、三つのしもべを自由に操れるバビル二世本人が、一番強いんじゃないかって思ったんだよ」
「なんだそれ。ちゃぶ台返しだな」
「まあな。でもさ、ひとつしか選べないって、思い込みや前提に縛られる必要はないんじゃないかなって。」
「なんだよ、急に。そのココロは何だ?」
「実はこの前、ある本を読んでな。そこに『イニシアチブ・ポートフォリオ』って考え方が書いてあったんだ」
「ポートフォリオ?」
「投資の世界でよく使われる言葉だな。円グラフを思い浮かべてみろよ。全部株とか、全部現金とかだと、状況次第で一気にやられるだろ? だから、性質の違うものをバランスよく組み合わせる。それがポートフォリオだ」
「なるほどな。」
「ここにある焼き鳥と冷ややっことサラダみたいなもんだろ。栄養バランスいいぞ。」
「茶化すなよ、ケイタ」
「その本では、仕事も同じだって言ってる。異質な仕事を組み合わせろ、ってな」
浩一は続ける。
「たとえば会社員。安定してるし、防御力は高い。稼げる会社なら攻撃力もある。でも、基本は二本足歩行だ。柔軟性や機動力は低くて、変化に弱い。子供の教育にいいところで暮らしたくても、勤務地は会社次第だ。」
「まさにポセイドンだな」
「そう。で、ロプロスは例えるなら国家資格を持った士業だ。税理士とか社会保険労務士とか。全国どこでも働けて、機動力が高い。なあ、智やん、お前のことだよ」
「ああ、しかし、同じ士業同士であれば、自分より能力があって、守備範囲が広い相手だと負けてしまうんだな。自分より高く、早く飛べる相手にはロプロスも弱い。」
「確かにな」
「そしてロデムはフリーランスだな。ウェブデザイナーとか。スキルさえあれば、場所を選ばず働けるし、需要に応じて戦い方も変えられる」
「需要に応じて戦い方を変えられるって言ったって、潮の流れを読み取る力と武器がないとやってけないんだぜ」ケイタが腕組みしながら答える。
「で、結局どうやってバビル二世は三つのしもべを手に入れるんだよ」
「いきなりバビル二世じゃなくていいんだよ。最初はただの高校生だったろ」
「またちゃぶ台返しだな」
種をまくという選択
「まあ、そう言うなよ。同時に三つ三等分は難しいけど、時間軸で比率を変えていくなら、できるんじゃないかと思って」
浩一は開き直ったように笑った。
「山口周さんの『人生の経営戦略』って本を読んでな。仕事のポートフォリオを考えるには、三つの視点が大事だって書いてあった」
「三つ?」
「リスクとリターン。長期と短期。そして、ライスワークとライフワークのバランスだ」
「ライスワークは生活のための仕事、ライフワークはやりがい重視、ってやつだな」
「そう。それって、人生のステージによって変わるんだよな。三十代の子育て世代なら、まずは稼ぎが大事だ。でも、子どもが独立したあとも、ずっと稼ぎと安定性重視の会社員のままでいいのかって、ふと考えたんだ」
浩一は製造業に勤める会社員だった。
「バビル二世って、超高度文明を持つ宇宙人が残した要塞で、超高性能コンピューターを使って指揮を取ってるだろ?」
「ああ、そんな設定だったな」
「当時はSFだけどさ。今のAIって、もうそれに近いんじゃないかと思ってな。俺たちは、バビル二世になる武器を、もう持ってるんじゃないかって」
少し間が空く。
「そう言えば、バビル二世の主人公って浩一って名前じゃなかったか。けど、ヒロインは由美子ちゃんだから、お前の奥さんの名前とは違うけどな」
ケイタが茶化しながら言う。
「言いたいことは分かった。でも、そんな簡単じゃないだろ?」
「もちろん簡単じゃないさ。でもさ、種をまかなきゃ、芽は出ないだろ」
浩一はビールに口を付けた後、続けた。
「俺、今は会社員だけど、定年後はフリーランスで働きたいと思ってる。だから少しずつ準備を始めてるんだ。最初は子猫みたいなロデムでもいい」
「時間はかかるけどな」
「だから今から種をまいて、水をやって、育てていくんだよ。長期と短期の視点さ」
智やんが笑って言った。
「なあ、さっき言ってた本、紹介しろよ。俺も読んでみる」
「これだよ」
浩一はそう言って、スマホを見せた。
・最強は置かれた状況で変わる。
・不確実性の高い時代には異質な仕事を持ちたい。
・異質な仕事の割合は時間軸で変えていく。
・芽が出るのに時間がかかるが、まずは種を撒くことが大事。


